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ドライバー採用の「2024年問題」と持続可能な解決戦略

ドライバー採用の「2024年問題」と持続可能な解決戦略
  • 公開日:2025/08/18
  • 更新日:2025/08/18

中小企業の経営者様、採用担当者様におかれましては、日々の事業運営において人材確保の重要性を痛感されていることと思います。
特に物流業界においては、喫緊の課題として「2024年問題」が取り沙汰され、ドライバー採用の難易度がかつてないほど高まっています。

この記事は、中小企業でのドライバー採用で実践できる具体的な解決策と未来への展望を提示することを目的としています。

ドライバー不足は単なる人手不足という表面的な問題に留まらず、労働環境、ドライバーの高齢化、法規制の強化、そして業界に対する社会的なイメージといった多層的な要因が複雑に絡み合って生じています。
これらの根深い構造的課題を深く理解することなくしては、一時的な対策では根本的な解決には至りません。
問題の本質を捉え、貴社が持続可能な採用戦略を構築するための一助となれば幸いです。

藤村俊太郎
この記事を書いた人
藤村俊太郎

愛知県知多市出身。愛知県立明和高校→慶應義塾大学卒業。高卒採用・大卒採用・中途採用のプロフェッショナル。年間4,000件以上の採用をマッチングさせる転職サービスの開発・運用を経験。自社採用部署における、新卒採用の立ち上げ・採用広報部署の立ち上げ・社員定着戦略/仕組みの構築を行う。採用戦略の構築とインハウス化が得意。

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はじめに:中小企業が直面するドライバー採用の現状

物流は、現代社会において人々の生活と経済活動を支える基盤であり、その中心を担うのがドライバーです。
しかし、この重要な役割を担うドライバーの確保が、現在、極めて困難な状況にあります。

 

宅配需要の急増とドライバー人口の横ばい

近年、EC(電子商取引)市場の急激な発達は、宅配便の取扱荷物量を劇的に増加させました。
国土交通省の発表によれば、2020年までのわずか5年間で、宅配の取扱荷物数は実に10.9億個も増加しています(国土交通省:報道発表資料 令和2年度宅配便取扱実績について)。
これは、スマートフォン一つで手軽に商品が購入できるようになった現代の消費行動を如実に示しています。

一方で、この爆発的な需要増に対し、ドライバーの供給は追いついていません。
ドライバーを含む輸送・機械運転従事者数は、2012年から2021年までの間、約84万人で横ばいに推移しています(総務省統計局:労働力調査)。
就業者が大幅に減少しているわけではないものの、増加し続ける物量に対応できるだけの新規参入や増員が見られないのが現状です。

この需給ギャップの拡大こそが、物流業界が直面するドライバー不足の本質的な問題であり、既存ドライバーへの過度な負担増大と、新規参入の困難さという悪循環を生み出しています。

有効求人倍率から見る人材不足の現実

市場における労働力の希少性を示す指標である有効求人倍率を見ても、ドライバー不足の深刻さは明らかです。
2019年5月時点で、ドライバーの有効求人倍率は2.75倍と、全職業の平均を2倍以上も上回る水準にあります(厚生労働省:職業安定業務統計)。
これは、運送業界が他の産業と比較して圧倒的に採用が困難な状況にあることを示唆しており、単に求人を出せば人が集まる時代は終焉を迎えたことを意味します。

実際に、2021年時点でも、トラックドライバーの不足を感じている企業の割合は54%に上ります(経済産業省:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況)。
この厳しい採用競争の現実を認識し、中小企業はより戦略的かつ多角的な採用アプローチを構築することが不可欠です。

2028年、2030年に予測される輸送能力の危機

現在のドライバー不足は、将来的にさらに深刻化する「時限爆弾」を抱えています。
将来予測では、2028年にはドライバーの不足数が27.8万人に達するとされており、この問題は今後一層深刻化すると見られています(農林水産省:物流の2024年問題に向けた 政府の取組について)。

さらに、内閣官房の「物流革新緊急パッケージ(案)」では、もし何も対策を講じなければ、日本の輸送能力は2024年度には14%、そして2030年度には実に34%も不足する可能性があると指摘されています。
特に東北地方をはじめとする地方部においては、その影響は全国平均を上回り、平均で約41%もの貨物が運べなくなる可能性が試算されています。

この輸送能力の危機は、単に運送業界の問題に留まりません。
製造業から小売業、そして最終消費者に至るまで、サプライチェーン全体に壊滅的な影響を及ぼす可能性を秘めています。
特に地方における輸送力不足は、地産地消の見直しや地域産業の衰退を招きかねない深刻な事態です。
企業がドライバー採用問題に真剣に取り組むことは、自社の事業継続性だけでなく、社会基盤の維持、ひいては地域経済への貢献にも繋がるという認識を持つことが求められます。

ドライバー不足を招く構造的な課題の深掘り

ドライバー不足の背景には、長年にわたり業界に根付いてきた構造的な課題が存在します。
これらの課題を深く掘り下げて理解することは、効果的な採用・定着戦略を立案する上で不可欠です。

労働条件の厳しさ:長時間労働と低賃金の実態

ドライバー職が敬遠される最大の要因の一つが、その厳しい労働条件です。
長時間労働と、それに報われない低賃金というアンバランスさが、新規就業者の減少と既存ドライバーの離職に直結しています。

全産業平均との比較で見る労働時間と年間所得のギャップ

自動車運転者は、他の産業と比較して長時間労働の実態にあります。
令和4年のデータでは、トラック運転者の年間労働時間は産業計と比べて約444時間(月平均約37時間)も長いとされています(国土交通省:トラック運送業の現状と課題)。
さらに詳細に見ると、大型トラック運転者で年間432時間(月36時間)、中小型トラック運転者で年間384時間(月32時間)も全産業平均より長いというデータが示されています。

これだけの長時間労働にもかかわらず、トラックドライバーの年間所得額は全産業平均よりも低い傾向にあります。
大型トラック運転者で約5%低く、中小型トラック運転者では約12%も低いとされています。

具体的な賃金データとして、令和5年5月から7月の1人1ヶ月平均賃金は、特積(特別積合せ貨物運送)が301,500円(対前年比6.6%減)、一般が330,800円(同0.5%増)です。
年間賞与の1ヶ月平均額を加えた月額では378,800円(同1.0%減)となっています(厚生労働省:令和4年賃金構造基本統計調査)。

企業規模別の平均年収を見ると、規模が大きいほど年収が高い傾向が明確です。
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、10人〜99人規模の企業では平均年収4,740,800円、100人〜999人規模では5,159,500円、1,000人以上規模では5,297,200円となっています。
このデータは、特に中小企業において、大手企業との賃金格差が人材確保の大きな障壁となっていることを示唆しています。

この「長く働いても報われない」という構造は、ドライバー職の魅力を大きく損なっています。
中小企業は、賃金競争が難しい場合でも、賃金以外の魅力(福利厚生、働きがい、労働環境の改善など)を創出し、差別化を図ることが不可欠です。

荷待ち・荷役時間の常態化とその影響

トラック運送業の長時間労働の大きな要因の一つとして、発着荷主の積み下ろし場所での長時間の荷待ち時間や荷役時間が挙げられます。
国土交通省の調査によれば、荷扱い時間は平均で1日あたり2時間45分、荷待ち時間は平均で1日あたり1時間34分にも及び、約2割のドライバーが2時間以上待機しているという実態が明らかになっています(国土交通省:トラック運送業の取引環境・労働時間改善に関する実態調査)。

この荷待ち時間は、ドライバーがトラック内で待機している間であり、敷地外に出たり自由に過ごすことができないため、「休憩時間」とは見なされません。

つまり、ドライバーは拘束されているにもかかわらず、その時間が労働時間として適切に評価されにくいという「見えない労働時間」が生じています。
これがドライバーの拘束時間を不必要に延長し、実質的な労働負荷を高めている大きな原因であり、賃金に反映されにくい構造は、ドライバーの不満の根源となっています。
この非効率を解消することが、労働時間短縮と生産性向上、ひいてはドライバーの待遇改善に直結する喫緊の課題であり、運送会社単独では解決しにくいため、荷主との連携強化が不可欠です。

 

不規則な休日とワークライフバランスの課題

現代の求職者、特に若年層や女性は、仕事とプライベートの調和であるワークライフバランスを重視する傾向が非常に強いです。
しかし、ドライバー職、特に長距離ドライバーの場合、一度出発すると1週間程度自宅に帰れないこともあり、不規則な休日の取り方になりがちです。
厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査」を見ると、運輸業・郵便局の週休1日制または1日半制を導入している企業の割合は11.2%で、完全週休2日制以上を導入している企業の割合は、39.0%です。

このような不規則な休日や長期拘束は、現代の求職者のライフスタイルと大きく乖離しており、運送業界がこれらの層から敬遠される大きな要因となっています。
採用競争力を高めるためには、単に労働時間を短縮するだけでなく、休日の質を高め、計画的な休日取得を促進し、柔軟な働き方を導入することが不可欠です。

 

【表1】トラックドライバーの平均賃金・労働時間│全産業との比較(厚生労働省:賃金構造基本統計調査

平均賃金 職種別平均賃金(1人1ヶ月平均賃金、令和5年5-7月)
ドライバー職種
月給
特積(全職種)
301,500円(対前年比6.6%減)
一般(全職種)
330,800円(対前年比0.5%増)
年間賞与の1ヶ月平均額を加えた月額
378,800円(対前年比1.0%減)
企業規模別平均年収(大型トラックドライバー、令和6年)

従業員数

平均年収
10人〜99人
4,740,800円
100人〜999人
5,159,500円
1,000人以上
5,297,200円
全産業平均との年間労働時間差(令和4年)
ドライバー種類
労働時間差
大型トラック運転者
+432時間(月36時間)
中小型トラック運転者
+384時間(月32時間)
全産業平均との年間所得額差(令和3年)
ドライバー種類
全産業平均との年間所得額差
大型トラック運転者
約5%低い
小・中型トラック運転者
約12%低い

この表が示すように、トラックドライバーは全産業平均と比較して、より長く働いているにもかかわらず、所得水準が低いという厳しい現実があります。
特に中小企業においては、大手企業との賃金格差も存在するため、賃金と労働時間のアンバランスさを解消するための抜本的な対策が求められます。

平均年齢の上昇と将来的な大量離職リスク

ドライバー不足のもう一つの深刻な要因は、現役ドライバーの高齢化と、それに伴う若年層の参入障壁です。

トラック運送事業従業員の平均年齢は上昇傾向にあり、男性運転者で49.0歳(前年48.4歳)となっています。
特に一般貨物運送事業では50.0歳に達しており、特積貨物運送事業でも47.6歳です(公益社団法人 全日本トラック協会:トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態)。
トラックドライバーの年齢構成は他の産業と比べ中年層の割合が高く、就業者全体の45.2%が40歳から54歳の階層に集中しており、全産業と比べても平均年齢は3〜6歳高い傾向にあります。

この高齢化は、単に平均年齢が上がるという問題に留まりません。
現在中年層のドライバーが11年から20年後には65歳を迎え、一斉に引退時期を迎えることが予想されます。
これは、近い将来、業界全体のスキルと経験が大量に失われる「人材の枯渇」リスクを意味します。

この危機感を共有し、採用の緊急性を高めるとともに、若年層の育成と定着が企業の持続可能性に直結する喫緊の課題であることを認識する必要があります。

高齢ドライバー特有の運転リスクと健康課題

高齢ドライバーの増加は、事故リスクの増大という新たな課題をもたらします。
加齢に伴い、身体機能(明暗順応、眼精疲労、深視力、動体視力、夜間視力、反射神経、判断能力、筋力、聴力、体力、身体の柔軟性など)や認知機能(空間認知力、短期記憶、注意力、予測力、実行機能など)の低下が避けられない現実として運転リスクを高めます。
特に50代からこれらの不調を強く感じ始める傾向があり、40歳以上で20人に1人が発症するとされる緑内障など、視野狭窄を引き起こし事故につながりやすい病気も存在します。

また、健康起因の体調変化(心疾患、脳血管疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患など)の有病率も高齢者ほど高くなり、運転中の意識消失や運動機能障害のリスクが増加します。
認知症と診断されれば免許取り消し・停止処分となりますが、その前段階であるMCI(軽度認知障害)でも、注意力や判断力の低下によりヒヤリハットや事故のリスクが高まることが明らかになっています 。

これらのリスクに対応するためには、単なる採用問題として捉えるだけでなく、企業の安全管理体制や健康経営への取り組みがより一層重要になります。
定期的な健康診断や運転適性診断、そして高齢ドライバーの特性を踏まえた再教育プログラムの導入は、ドライバーを守り、企業の信頼性を維持するために不可欠な投資と言えるでしょう。

運転免許制度改正が若年層採用に与える影響

若年層がドライバー職に就く際の初期ハードルを上げているのが、運転免許制度の改正です。
中型以上の車両を運転するには、追加で準中型免許や中型免許の取得が必要となり、免許取得に時間とコストがかかることが新規参入の大きな障壁となっています。

特に中小運送企業においては、免許取得支援制度が十分に整っていないケースも多く、これが若手人材の確保をさらに困難にしています。
この障壁を乗り越えるためには、免許取得支援制度の整備など、若年層への積極的な投資が不可欠です。
これは、採用コストを短期的な費用と捉えるのではなく、長期的な人材育成への戦略的投資と捉える視点の転換を促します。
免許取得支援は、採用活動における具体的な差別化要因となり、若年層の確保に大きく貢献するでしょう。

運送業界の「3K」イメージとその払拭の必要性

運送業界は長らく、「きつい(Kitsui)」「汚い(Kitanai)」「危険(Kiken)」という「3K」イメージがつきまとい、特に若い労働者から敬遠される傾向にありました。
この「きつい」というイメージの具体的な要因としては、長時間の運転、深夜・早朝勤務、残業の多さ、休日の取りにくさ、給料の低さ、荷物の積み下ろし作業、そして配送ノルマなどが挙げられます。

この3Kイメージは、業界全体の採用力を低下させる最大の要因の一つであり、社会に深く根付いた認識として定着しています。
しかし、近年では技術の導入、労働環境の整備、システムの導入などにより「3Kではない」イメージ払拭への取り組みが業界全体で始まっており、大きく向上しています。

このイメージを払拭するためには、単なる広報活動だけでは不十分です。
労働環境・待遇の抜本的な改善という「実態の変化」を伴い、その上で、改善された実態を積極的に「見える化」し、発信していくことが不可欠です。
採用活動においては、自社の「働きやすさ」や「社員の魅力」を具体的に示すことで、求職者の意識を変え、業界全体のイメージ刷新に貢献することが求められます。

女性ドライバーの進出の遅れとその背景

ドライバー不足が深刻化する中で、女性ドライバーの労働力としてのポテンシャルは非常に大きいにもかかわらず、その進出は遅れています。その背景には、いくつかの構造的な課題が存在します。

主な要因として、妊娠や出産に伴う育児休業や再雇用制度の未整備が挙げられます。
また、長時間労働や重量物を扱うことによる身体的な負担が大きいというイメージも、女性の参入を阻む要因となっています。
さらに、勤務先や納品先での女性専用の更衣室やトイレといった設備が不足していることも、女性が働きにくいと感じる一因です(国土交通省:トラック運送業の現状と課題)。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、全産業で65歳以上の就業者が占める割合が13.7%であるのに対し、トラックドライバーでは9.5%に留まっています、
これは女性だけでなく、高齢者にとっても身体的負担が大きいことを示唆しています。

女性ドライバーの進出の遅れは、労働力不足の深刻化に拍車をかけている一方で、これまで十分に活用されてこなかった大きな労働力ポテンシャルが存在することを示唆しています。
女性が働きやすい環境を整備することは、単に多様性を確保するだけでなく、新たな労働力を創出し、業界全体の持続可能性を高める戦略的な機会となります。
具体的な課題(設備、制度)を解決し、女性が安心して働ける職場環境を構築することが、採用競争力を高める上で極めて重要です。

【表2】運送業界の離職率とその主な原因(厚生労働省:令和3年雇用動向調査結果の概況

離職率
データ
運輸業・郵便業の離職率(厚生労働省「令和3年雇用動向調査」)
約12%前後(全産業平均13.9%を下回る)
中小運送企業における離職率
15〜20%程度のケースも少なくない
新規採用ドライバーの1年以内離職率
20%を超える企業も多い
離職率が高くなる主な原因
体力・肉体的にしんどい
 
長時間労働への不満
 
休日が少ない
 
教育体制が不十分
 
コミュニケーションが取りづらい
 
労働時間への不満度(厚生労働省「トラックドライバーの勤務条件と疲労・睡眠」)
「長すぎる」と感じる割合が一定数存在

この表は、運送業界の離職率が全産業平均を下回るものの、特に中小企業や新規採用ドライバーの早期離職率が高いという実態を浮き彫りにしています。
離職の主な原因が、体力的な負担、長時間労働、休日不足といった労働条件に加えて、教育体制やコミュニケーションといった職場環境の問題に起因していることが分かります。
このデータは、後のセクションで提示する具体的な改善策(労働時間改善、賃金見直し、教育体制、コミュニケーション強化など)の必要性と効果をより説得力を持って説明する基礎となります。

「2024年問題」が中小企業にもたらす具体的な影響

2024年4月から施行された「2024年問題」は、物流業界、特に中小企業に多岐にわたる深刻な影響をもたらしています。
これは単なる労働時間短縮の義務化ではなく、事業継続そのものに関わる経営の根本的な転換を迫るものです。

時間外労働上限規制(年間960時間)の適用と改正改善基準告示

2024年4月1日より、自動車運転業務における時間外労働は年間960時間までの上限規制が設けられ、これに違反した場合には罰則が適用されることになりました(厚生労働省:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示))。
これは、従来の「長時間労働で稼ぐ」というビジネスモデルの終焉を意味し、運送事業者には新たな働き方への移行が不可避であることを突きつけています。

この上限規制に伴い、ドライバーの1年、1ヶ月、1日の拘束時間、休息期間などを厳しく規制する「改正改善基準告示」も適用されています。
具体的には、1日の拘束時間は原則13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回まで)、1日の休息時間は継続11時間以上与えることが基本(9時間を下回らない)となります。

さらに、長時間の荷待ちが疑われる場合には、労働基準監督署から荷主等に対して「要請」が行われることになります。
これは、運送事業者が単独で抱え込んできた荷待ち問題が、サプライチェーン全体で解決すべき問題であるという認識を広める上で極めて重要です。
中小企業は、限られたリソースの中で、いかに効率化とコンプライアンスを両立させるかが問われており、荷主との協力関係の構築が不可欠となっています。

輸送能力の低下と物流コストの高騰

時間外労働の上限規制が適用されることにより、トラックドライバー1人当たりの運行時間が減少し、走行距離も短くなります。
これにより、1日に運べる荷物量が減り、結果として物流業界全体の輸送能力が低下します。

内閣官房の試算では、何も対策を講じなかった場合、日本の営業用トラックの輸送能力は2024年度には14%、そして2030年度には34%も不足する可能性があるとされています。
特に東北地方では、平均で41%もの貨物が運べなくなる可能性が指摘されており、地方経済への影響はより深刻です(持続可能な物流の実現に向けた基本的方針)。

この輸送能力の低下を補うためには、ドライバーの増員が不可欠となりますが、これは採用コストや人件費の割合増加に直結します。
また、時間外労働の割増賃金率の増加も相まって、人件費が高騰し、結果として運送事業者の売上や利益が減少する可能性があります。
最終的に、運賃の値上げなど物流コストの増大は避けられない状況となっており、これは荷主企業や最終消費者にも転嫁されることになります。

この「運べない」リスクの顕在化は、単なる「遅延」以上の問題であり、荷主企業の生産計画や在庫管理に直接的な影響を与え、サプライチェーン全体の混乱を招く可能性があります。
中小企業は、このリスクを回避するために、運賃交渉の適正化に加え、共同輸配送やモーダルシフトといった物流効率化策を積極的に検討する必要があります。

【表3】2024年問題による輸送能力不足の予測(持続可能な物流の実現に向けた検討会
予測年
対策を講じなかった場合の輸送能力不足率(全国平均)
東北地方における輸送能力不足率(平均)
2024年度
14.2%
-
2030年度
34.1%
約41%

この表は、2024年問題が物流業界にもたらす将来的な輸送能力不足の具体的な数値を示しており、この問題が一時的なものではなく、長期的に深刻化する課題であることを明確に示しています。
特に地方部での影響の大きさを強調することで、地域経済への影響まで視野に入れた対策の緊急性を訴えかけます。
この予測は、企業が今すぐ対策を講じなければ、事業継続が困難になる可能性を示唆しており、具体的な行動への強い動機付けとなるでしょう。

ドライバーの収入減とそれに伴う離職リスクの増大

トラックドライバーの給与体系は、基本給が低く、残業代や歩合給の占める比率が高いという特徴があります。
これは、長時間労働で多くの仕事をこなすことで残業代や歩合給を稼ぐという、従来の働き方が前提となっていました。
しかし、2024年問題により時間外労働が制限されると、これらの給料が減少し、ドライバーの収入全体が減る見込みです。

走行距離によって賃金を設定している事業者においても、稼働時間の制限により走行距離が短縮されるため、結果的に収入減につながります。
この収入減は、ドライバーのやる気の低下や、より高収入な他職種への転職など、離職の増加につながる大きな課題です。

ドライバーの収入減は、業界の魅力をさらに低下させ、「稼げない」業界というイメージを固定化するリスクがあります。
これは、新規参入をさらに困難にし、既存ドライバーの離職を加速させる悪循環を生む可能性があります。
企業は、労働時間削減と並行して、基本給の引き上げや、成果報酬以外の手当の充実など、収入を安定させるための賃金体系の見直しが急務です。

荷主企業への影響とサプライチェーン全体の混乱

「2024年問題」は、運送事業者だけでなく、その取引先である荷主企業にも直接的な影響を及ぼします。
物流コストの上昇は運送料金への値上げとして転嫁され、結果として荷主企業の売上や利益を減少させる可能性があります 。

また、ドライバーの労働時間制限により、短納期配送の制限や配送頻度の減少が発生します。
これは、荷主企業の生産計画や在庫管理に大きな影響を与え、ひいてはサプライチェーン全体に混乱が波及する懸念があります。

最終的に、この影響は消費者にも及びます。
宅配便の再配達による効率低下は、ドライバーの負担を増やすだけでなく、商品価格へのコスト転嫁を通じて消費者の負担増につながる可能性も指摘されています。

物流の持続可能性は、運送事業者単独の努力だけでは達成できません。
荷主企業との相互理解を深め、荷待ち時間の短縮、附帯作業の軽減、リードタイムの延長など、サプライチェーン全体で課題を共有し、協力して効率化・最適化を進めることが不可欠です。
運送事業者は、荷主に対し、単なるサービス提供者ではなく、物流戦略のパートナーとしての価値を提示し、積極的な対話を通じて改善を提案していくべきです。

ドライバーの採用・定着を成功させるための戦略と実践的施策

ドライバー不足という喫緊の課題を解決し、持続可能な事業運営を実現するためには、労働環境・待遇の抜本的な改善、多様な人材の確保と育成、採用活動の最適化、そして定着率向上のための継続的な支援が不可欠です。

ドライバーの採用と定着を成功させる上で最も重要なのは、彼らが「ここで長く働きたい」と感じる魅力的な労働環境と待遇を整備することです。

 

荷待ち・荷役時間の削減:ITツール導入と荷主との連携強化

荷待ち・荷役時間は、ドライバーの拘束時間を不必要に延長し、生産性を低下させる大きな要因です。
この「待機時間」を「稼働時間」に転換し、生産性向上と労働時間短縮を同時に実現することが最も直接的な手段となります。

そのための強力な武器となるのがIT技術の活用です。具体的には、トラックの到着時間や荷役作業にかかる時間を見える化するバース予約システムや、リアルタイムモニタリングシステムの導入が有効です
さらに、AIを活用したピッキングロボットや自動倉庫の導入は、荷役作業の自動化を進め、ドライバーの肉体的負担を大幅に軽減する可能性を秘めています

いくつかの企業では、既にこれらの取り組みを進め、顕著な成果を上げています。

荷役作業と配送作業を分離できる「スワップボディコンテナ車両」を導入しました。これにより、コンテナの着脱が約20分で完了し、ドライバーの拘束時間を大幅に短縮することに成功しています

この車両導入をきっかけに、長距離便を分割したり、空荷での片道便を改善したりすることで、他のドライバーの労働時間削減と満足度向上にも貢献しています


スワップボディコンテナは、牽引免許が不要で、荷役作業をドライバーから切り離せるため、女性や高齢者の雇用促進にも繋がるというメリットがあります
独自の運行管理システム「乗務員時計(リアルタイム支援システム)」を開発し、運用を開始しました。

このシステムにより、運転者と運行管理者がリアルタイムで運転時間、拘束時間、休息期間を把握できるようになり、特定のルートや運転者に業務が偏らないよう平準化が可能になりました


さらに、荷主側にも時間管理情報を提供することで、荷待ち時間の解消に向けた具体的な協力を得ることに成功し、良好な関係を構築しています
ファミリーマート がAIによる配送網作成で輸送費を年間10億円以上削減する見込みを立てています。

ヤマト運輸
はビッグデータとAIを活用して配送業務量を予測し、配送計画を最適化しています。

また、
佐川急便 はAIによる集配順序の自動決定や配送伝票の入力自動化を実現し、月間8,400時間もの作業工数削減に成功しています

これらの事例が示すように、IT投資は大きな効果をもたらしますが、中小企業にとっては初期投資のハードルがあることも事実です。
しかし、段階的な導入や、補助金制度の活用、あるいは荷主との共同投資も視野に入れることで、着実に荷待ち・荷役時間の削減に取り組むことが可能です。

賃金体系の見直しと福利厚生の充実

ドライバーの離職原因の大きな部分を占めるのが賃金への不満です。
賃金体系の見直しは、単に金額を上げるだけでなく、ドライバーが「安心して長く働ける」という金銭的安心感と、「頑張りが正当に評価される」という納得感を提供することが重要です。

具体的には、基本給と歩合給のバランスを見直し、安定収入を確保しつつ努力が報われる体系を構築することが求められます。
長期勤続者への特別手当や報奨金制度、無事故手当、皆勤手当、愛車手当など、頑張りが評価される手当を充実させ、その内容を給与明細や面接で分かりやすく説明することで、ドライバーは安心感と納得感を得ることができます。
ヤマト運輸のように、集荷が多いほど報奨金を受け取れるインセンティブ制度は、ドライバーのモチベーションアップに効果的です。

また、福利厚生の充実は、ドライバーの帰属意識を高め、離職を思いとどまらせる強い動機となります。
住宅手当・家族手当の拡充、法定外健康診断、病気などで働けなくなった場合の保障など、社員の生活を豊かにする施策は、会社が従業員の健康や生活を大切にしているという実感を与えます。

茨城県を拠点とする十和運送株式会社では、全部で30種類の充実した福利厚生を用意し、ワークエンゲージメントの向上に努めています。
中小企業は、大手企業ほどの高額な基本給を提示できない場合でも、手当の充実や評価基準の透明化、そしてきめ細やかな福利厚生によって、ドライバーのモチベーションと定着率を高めることが可能です。

 

労働時間・休日の適正化と柔軟な働き方の導入

2024年問題によって労働時間規制が強化される中で、企業は単に法を遵守するだけでなく、ドライバーが「働きやすい」と感じる環境を積極的に構築する必要があります。
労働時間や休日の適正化は、単一的な基準ではなく、育児・介護との両立、副業の可能性、プライベートの充実など、多様な「働きやすさ」のニーズに対応できる柔軟な制度設計が求められます。

具体的には、荷主との納品時間の調整、シフト制の見直しや交代制の導入によって、連続勤務日数の削減や休日の計画的取得を促進し、ドライバーの身体的・精神的負担を軽減することが重要です。
終業時間から次の始業時間まで一定以上の休息時間を設定する勤務間インターバル制度も、ドライバーの疲労回復に有効な施策です。

先進的な取り組みを行う企業事例として、以下が挙げられます。

新卒採用と並行して、育児短時間ダイヤ制度、女性運転士専用路線の運行、女性トイレや宿泊施設の環境改善などを行い、女性にも働きやすい環境を整備し、定着率向上を目指しています
本人の希望を踏まえ1日の労働時間もしくは週の労働日数を短縮できる制度を導入しており、育児や介護など様々な理由で約120名の社員がこの制度を利用しています

これらの事例は、育児や介護といったライフイベントに対応した柔軟な働き方が、特定の層だけでなく、幅広い人材が「ここで働きたい」と感じる魅力的な職場環境を創出し、人材の定着に繋がることを示しています。

 

多様な人材の確保と育成

経験者ドライバーの確保が困難な現状において、これまで十分に活用されてこなかった未経験者、女性、若手層、そしてシニア層といった多様な人材を「金の卵」と捉え、育成に投資することは、採用の裾野を広げ、将来の労働力を確保するための戦略的な意義を持ちます。

未経験者・女性・若手層を「金の卵」として迎え入れる体制

人手不足の今、経験者採用だけに固執するのは得策ではありません。
未経験者でも安心してドライバー職に飛び込める環境を整備することが重要です。
具体的には、経験豊富な先輩ドライバーが同乗して指導する「横乗り研修(最低1ヶ月以上)」や、準中型・中型・大型免許、危険物取扱者、フォークリフト免許などの「資格取得費用の全額補助」を制度化することが効果的です。

女性ドライバーの採用を促進し、定着率を向上させるためには、女性専用の更衣室やトイレの設置、育児短時間ダイヤ制度の導入など、女性が働きやすい施設と勤務形態の整備が不可欠です。

また、国土交通省が創設した「働きやすい職場認証制度」や「女性ドライバー応援企業」認定制度を活用し、労働条件や労働環境の「見える化」を図ることも有効です。

これらの認証マークが付与された企業は、求職者とその家族に対し、安心して働ける会社であることをアピールでき、企業のブランドイメージ向上と採用競争力強化に直結します。

 

シニア層の活躍推進と安全管理

高齢化が進む日本社会において、シニア層の労働力活用も重要です。
長時間運転に慣れているシニア層は、豊富な経験とスキルを持つ即戦力として活躍の可能性があります。

一方で、加齢に伴う身体機能・認知機能の低下は、高齢ドライバー特有の運転リスクを増大させます。
企業は、彼らの経験を最大限に活かしつつ、安全運転を確保するための投資を惜しまない姿勢が求められます。
具体的には、定期的な健康診断、運転適性診断、そして高齢ドライバーの特性を踏まえた再教育プログラムの導入など、安全管理を徹底することがポイント。
車両の安全装備の充実も不可欠です。
これにより、多様な年齢層が共存し、それぞれの強みを活かせる職場環境を構築できます。

 

採用活動の最適化と効果的なアプローチ

深刻なドライバー不足に対応するためには、従来の「待ち」の採用手法から脱却し、デジタルを活用した「攻め」の採用戦略へと転換することが不可欠です。

 

採用基準の「スキル」から「人柄」へのシフト

採用の目的は、単に人数を揃えることではなく、長く活躍してくれる人材を確保することです。
成功している企業は、「自社の社風に合うか」「真面目にコツコツ取り組めるか」といった人柄を重視する傾向にあります。

この人柄重視の採用を補完し、入社後のミスマッチを劇的に減らすために有効なのが、面接における「現場見学」や半日程度の「体験乗務」の導入です。
応募者には会社のリアルな姿を見てもらい、会社側は応募者の仕事への姿勢を見る機会を設けることで、入社後の「こんなはずじゃなかった」というギャップを解消し、早期離職を防ぐことができます。
これは、採用プロセスそのものが、企業の文化や働き方を伝える「ブランディング」の場であるという認識を促します。

採用人物像については下の記事で詳細を解説していますのでご確認ください↓

 

求人情報の「見える化」と職種別最適化

求人情報と実態の乖離は、早期離職の大きな原因となります。
特に労働条件が厳しいとされるドライバー業界では、透明性の高い情報開示が信頼を築く上で極めて重要です。

労働条件(給与、各種手当、年収イメージ、休日、福利厚生)を細部まで具体的に公開することで、求職者の信頼度を高め、具体的なイメージを持たせ、ミスマッチを防止します。
基本給だけでなく、「無事故手当」「皆勤手当」「愛車手当」など、頑張りが評価される手当を充実させ、その内容を給与明細や面接で分かりやすく説明することが重要です。
収入の仕組みがクリアであることは、ドライバーが安心して長く働くための土台となります。

また、「長距離」「地場」「ルート」など、一口にドライバーと言っても求める人物像や仕事の魅力は全く異なります。
職種別に求人を最適化し、それぞれのターゲットに響くように求人原稿のタイトルやアピールポイントを完全に作り分けることで、ターゲットへの訴求力と応募の質を向上させることができます。

求人原稿については、「誰に」求人情報を届けるかを意識し、その人に訴求する内容にまとめることもポイント。
求人原稿作成の徹底解説記事がございますので、こちらも合わせてご確認ください

 

デジタルを活用した「攻め」の採用戦略

従来の「待ち」の採用(求人広告掲載のみ)では、深刻なドライバー不足に対応できません。
採用サイトのリニューアル、スカウトメール、SNS、スキマバイトサービスといったデジタルツールを活用した「攻め」の採用は、潜在層にリーチし、企業の魅力を積極的に伝える上で不可欠です。

ホームページのリニューアルにより、応募者数が30数人から250人以上に増加しました

企業理念の再定義と「理念への共感」を重視した選考基準により、定着率が向上し、若年層や女性の採用にも成功しています

大手求人サイト「エン転職」のスカウトメールを活用し、未経験者やシニア層(特に長時間運転に慣れている層)にターゲットを絞り、「難しい仕事」というイメージを払拭するメッセージで応募につなげています

結果、子育てを終えた未経験女性やシニア層からの応募が増加し、採用された人材の離職が激減しています

株式会社心希 はSNS運用開始から2ヶ月で2名のドライバーを採用し、採用が難しいとされるZ世代の女性ドライバーの採用にも成功しています

協栄流通株式会社 はYouTubeで業務内容と企業文化を詳細に伝えることで、動画視聴後の応募者の入社後のミスマッチが減少し、定着率向上に貢献しています


三和交通 は複数SNS(TikTok含む)を組み合わせた複合的アプローチにより、20〜30代からの応募が大幅に増加し、「SNSを見て応募を決めた」という若年層も増え、タクシードライバーの人柄や日常を可視化することで業界イメージ刷新にも貢献しています

 2024年問題に対応するため、西濃運輸はタイミーで運送業を気軽に経験したいワーカーを募集しました。

職場の雰囲気や仕事の楽しさを感じてもらうことを目的に、2024年2月からの1年間で92名が正社員として入社しています(これは西濃運輸が1年間で採用した正社員全体の約10%にのぼります)

採用された正社員のほとんどが20代から40代の働き盛り世代で、物流業界未経験者も多く含まれていますが、実際に業務を経験してからの正社員登用となるため、スムーズな採用につながっています

タイミーの事例が示すように、入社前に「体験」を提供することで、ミスマッチを減らし、スムーズな正社員登用につなげられる点は、中小企業が参考にすべき重要な戦略です。

これらの成功事例は、デジタルツールを積極的に活用し、求職者に対し「能動的にアプローチする」こと、そして「入社前に仕事のリアルを体験してもらう」ことの重要性を示しています。
これにより、採用の母数を増やし、かつミスマッチを減らすという二重の効果が期待できます。

 

【表4】ドライバー採用成功事例の比較分析

 

企業名
主な施策
ターゲット層
具体的な成果
成功要因
つばめタクシー・大和グループ
採用サイトリニューアル
若年層、女性、未経験者
応募者数30人→250人以上、定着率向上、若年層・女性採用成功
企業理念の再定義と共感重視、デザイン性の高いサイト
新雪運送株式会社
スカウトメール活用(エン転職)
未経験者、シニア層(長時間運転慣れ)
未経験女性・シニア層応募増、離職激減
「ラブレター」と捉えた丁寧なスカウトメール、教育体制整備
株式会社心希
SNS採用(TikTok)
若年層(特にZ世代女性)
2ヶ月で2名採用(Z世代女性含む)
若者にアピールできるコンテンツ、SNS運用代行活用
協栄流通株式会社
SNS採用(YouTube)
全年齢層
入社後のミスマッチ減少、定着率向上
業務内容と企業文化の詳細な動画コンテンツ
三和交通
複数SNS活用(TikTok含む)
20〜30代若年層
20〜30代応募大幅増、業界イメージ刷新
タクシードライバーの人柄・日常の可視化、複合的アプローチ
西濃運輸株式会社
スキマバイトサービス「タイミー」活用
20〜40代働き盛り世代、物流未経験者
1年間で92名正社員採用(全正社員採用の約10%)
入社前の「体験」による相互理解、現場の「人を大切にする文化」

この比較分析表は、各社の成功が、単一の施策に依存するのではなく、ターゲット層のニーズを深く理解し、それに応じたアプローチを多角的に展開していることを示しています。
特に、採用サイトやSNS、スカウトメールといったデジタルツールを駆使し、入社前の「体験」を提供することで、ミスマッチを減らし、採用効率と定着率を向上させている点が共通の成功要因として挙げられます。

 

定着率向上のためのコミュニケーションとキャリアパス

採用したドライバーが長く活躍し続けるためには、入社後の定着支援が不可欠です。
特に、ドライバー職は単独での業務が多く、孤立感を感じやすい傾向にあるため、定期的なコミュニケーションとキャリアパスの明確化が重要となります。

 

1on1ミーティング、社内コミュニケーションの活性化

ドライバーの離職原因の一つに、「コミュニケーションが取りづらい」ことが挙げられています。
この課題を解決するためには、ドライバーの心理的安全性を高め、不満を抱え込ませない環境を構築することが重要です。

具体的には、管理者との1on1ミーティングによる定期的な対話を通じて、個々のドライバーの悩みやキャリア志向を把握し、サポート体制を強化することが有効です。
また、LINEやSlackなどのグループチャットを活用した情報共有の活性化は、ドライバー同士や管理者との連携を密にし、孤独感の解消につながります。
定期的な匿名アンケートを通じて現場の声を収集し、改善ポイントを見つけ出すことで、ドライバーの不満を早期に発見・改善することも重要です。

鶴信運輸では、朝礼での「褒めワーク」を通じて社内の雰囲気を良くし、否定する文化をなくすことで、良いアイデアが生まれる文化を育んでいます。
このような取り組みは、単なる業務連絡に留まらない、人間関係を重視したマネジメントの重要性を示唆しています。

 

キャリアアップの道筋の明確化と教育体制の整備

「ドライバーは行き止まりの仕事」というイメージは、特に若年層の定着を阻む大きな要因となります。
このイメージを払拭し、ドライバーが自身の成長を実感し、長期的なキャリア形成を描けるようにすることが、エンゲージメントと定着率を飛躍的に向上させます。

具体的には、危険物取扱者やフォークリフト免許などの資格取得支援制度を充実させ、ドライバーがスキルアップできる機会を提供することが効果的です。
さらに、配車担当や運行管理者、管理職へのステップアップに必要なマネジメント研修など、具体的なキャリアパスを示し、そのための教育体制を整備することが重要です。

また、業界未経験者には固定給、経験者には歩合制や業績による昇給制など、従業員が選択できる給与制度を導入することも、キャリアパスと連動したモチベーション向上に繋がります。
これにより、ドライバーは自身の努力が将来のキャリアや収入に繋がることを実感し、長期的な視点で仕事に取り組むことができるでしょう。

未来を見据えた物流業界の変革と採用への示唆

ドライバー不足問題は、物流業界全体の変革を加速させる契機ともなり得ます。
特に、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、労働環境の改善と生産性向上を両立させ、未来の採用戦略に大きな示唆を与えます。

物流DXの推進:AI・IoT技術のさらなる活用

AIやIoT技術の活用は、ドライバーの肉体的・精神的負担を軽減し、労働環境を抜本的に改善する可能性を秘めています。

 

配送ルート最適化、自動倉庫、自動運転技術の可能性と課題

AIを活用した配送網作成や配送業務量予測、集配順序の自動決定は、輸送費削減、配送効率化、ドライバーの負担軽減に大きく貢献します

ファミリーマートがAIによる配送網作成で年間10億円以上の輸送費削減を目指しているほか、ヤマト運輸はビッグデータとAIで配送業務量を予測し配送計画を最適化、佐川急便はAIで集配順序の自動決定や配送伝票の入力自動化を実現しています
AI自走式ロボットや自動フォークリフトの導入により、倉庫内のピッキング作業時間削減、在庫運搬距離短縮、省人化、生産性向上が期待されます

日本通運はAI自走式ロボットでピッキング作業時間を20%削減し、三菱倉庫やAmazonも自動棚搬送型ロボットやAIロボットを導入して効率化を図っています
トラックの自動運転は、休息なしでの運行を可能にし、寝不足などによる事故防止、人件費の大幅削減(運送業の総コストの60〜70%を占める人件費を30〜50%削減の可能性)、人手不足解消、コストカット、ドライバーの労働時間削減、ミスによる事故減少といった多大なメリットをもたらします

これは、業界の魅力を高める重要な要素となるでしょう。

しかし、自動運転技術の導入には大きな課題も伴います。
インフラ整備、高額な車両コスト、法規制の整備、事故発生時の対応への不安、そして100%の完全自動運転の難しさ(停止後の再発進や合流など、現状では人の手を借りなければ困難な部分が多い)といった点が挙げられます。
特に完全自動運転(レベル5)はまだ実証実験段階であり、道路交通インフラの整備や法規制のさらなる見直しが必要です。

物流DXは、ドライバーの肉体的・精神的負担を軽減し、労働環境を抜本的に改善する可能性を秘めていますが、これは同時にドライバーの役割が「運転」から「監視・管理」へと変化することを意味します。
既存ドライバーのリスキリング(再教育)や、新たな役割の創出が不可欠となるでしょう。

 

中小企業における導入の現実とステップ

大規模なIT投資や自動運転技術の導入は、経営基盤が脆弱な中小運送業者にとっては大きな負担となる可能性があります。
そのため、中小企業がDXを推進する上では、いきなり大規模なシステム導入を目指すのではなく、自社の課題に合わせた「スモールスタート」と「段階的導入」が現実的かつ効果的です。

まずは、荷待ち・荷役時間削減のためのバース予約システムや、運行管理のデジタル化、原価計算システムの導入など、比較的導入しやすいITツールから始めるのが現実的です。
これにより、費用対効果の高い部分から着手し、着実に労働環境改善と生産性向上を図ることができます。

 

荷主との協調とサプライチェーン全体の最適化

「2024年問題」は、運送会社と荷主の関係を「取引」から「協力」へと変革する契機となります。
物流の持続可能性は、運送事業者単独の努力だけでは達成できません。
荷主企業との「共創」関係を築き、サプライチェーン全体で課題を共有し、協力して効率化・最適化を進めることが不可欠です。

具体的には、荷主とトラック事業者が連携して、荷待ち時間・待機時間の削減(予約システムの導入、出荷・受入れ体制の見直し)、作業削減(パレット化による手荷役作業の削減)、リードタイムの延長、情報の共有化、DXによる業務効率化などに取り組む必要があります。
運送事業者は、荷主に対し、単なるサービス提供者ではなく、物流戦略のパートナーとしての価値を提示し、積極的な対話を通じて改善を提案していくべきです。

 

運送業界の社会的イメージ向上への継続的な取り組み

運送業界の「3K」イメージは、採用に大きな影響を与えています。
このイメージを払拭するためには、労働環境・待遇の「実態」を改善し、その上でそれを積極的に「発信」していくことが不可欠です。

ドライバーの正社員化(安定したイメージの提供)や、社内での「褒める文化」の醸成など、従業員が働きがいを感じられる職場づくりもイメージ向上に寄与します。
SNSを活用した採用活動は、ドライバーの人柄や日常を可視化することで業界イメージ刷新に貢献しており、中小企業でも手軽に情報を発信できる強力なツールとなります。

実態を改善するだけでなく、それを外部に積極的に発信することで、業界全体のイメージを変えることができます。
特に中小企業は、自社の「働きやすさ」や「社員の魅力」を具体的に示すことで、業界全体のイメージを変える一翼を担うことが期待されます。

まとめ:中小企業が今すぐ取り組むべきこと

ドライバー業界の採用問題は、多岐にわたる複雑な要因が絡み合っており、単一の解決策では不十分です。中小企業がこの課題を乗り越え、持続可能な事業運営を実現するためには、労働環境改善から採用活動、定着支援まで、一貫した体系的なアプローチが必要です。限られたリソースの中で、自社の強みと弱みを踏まえ、優先順位を付けて取り組むことが成功への鍵となります。

 

採用課題解決に向けたロードマップ

中小企業がドライバー採用と定着を成功させるための具体的なロードマップは以下の通りです。

ステップ1: 現状把握と課題の特定

  • 自社の労働時間、賃金、離職率を客観的に分析し、業界平均や全産業平均と比較します。
  • ドライバーへのヒアリングや匿名アンケートを通じて、不満点や改善要望を具体的に特定します。
    これにより、問題の根源を正確に把握し、対策の優先順位を定めることができます。

ステップ2: 労働環境・待遇の改善(優先順位付け)

  • 荷待ち・荷役時間の削減に向けた荷主との交渉を開始し、バース予約システムなどのITツール導入を検討します。
  • 賃金体系の見直しに着手し、基本給の安定化、各種手当の充実、評価の透明化を図ります。
  • 休日の確保と、育児・介護などに対応できる柔軟な働き方の導入を検討します。

ステップ3: 多様な人材の確保と育成

  • 未経験者、女性、若手、シニア層の採用に向けた体制整備を進めます。
    具体的には、横乗り研修や資格取得支援制度の充実、女性専用施設の整備、育児短時間ダイヤ制度の導入などです。
  • 国土交通省の「働きやすい職場認証制度」や「女性ドライバー応援企業」認定制度を活用し、自社の働きやすい職場環境を積極的にアピールします。

ステップ4: 採用活動の最適化

  • 求人情報の「見える化」を徹底し、給与・手当、仕事内容、年収イメージなどを具体的に記載します。
  • 長距離、地場、ルートなど職種別に求人を最適化し、ターゲット層に合わせた訴求ポイントを明確にします。
  • 採用サイトのリニューアル、SNS、スカウトメール、スキマバイトサービスなど、デジタルを活用した「攻め」の採用戦略を導入し、潜在層へのリーチを拡大します。

ステップ5: 定着率向上のための継続的支援

  • 1on1ミーティングや社内SNSなどを活用し、ドライバーとのコミュニケーションを活性化させ、心理的安全性を確保します。
  • キャリアアップの道筋を明確にし、資格取得支援や管理職研修など、ドライバーの成長機会を継続的に提供します。


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