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EVPとは?採用と定着を劇的に改善する「従業員価値提案」の作り方と事例

EVPとは?採用と定着を劇的に改善する「従業員価値提案」の作り方と事例
  • 公開日:2025/12/08
  • 更新日:2025/12/08
藤村俊太郎
この記事を書いた人
藤村俊太郎

愛知県知多市出身。愛知県立明和高校→慶應義塾大学卒業。高卒採用・大卒採用・中途採用のプロフェッショナル。年間4,000件以上の採用をマッチングさせる転職サービスの開発・運用を経験。自社採用部署における、新卒採用の立ち上げ・採用広報部署の立ち上げ・社員定着戦略/仕組みの構築を行う。採用戦略の構築とインハウス化が得意。

EVPは、「企業が従業員のスキル、能力、経験と引き換えに提供する、独自の特典やメリットの総体」と定義されます。

単なる「採用スローガン」や「給与と福利厚生のリスト」と誤解されることもありますが、EVPは、従業員が組織に属することで得られる経験全体を包括する概念であり、組織ブランドの核心をなすものです。

この記事では、EVPの基礎的な定義から、成功企業の具体的な導入事例までを網羅的に解説します。さらに、多くの企業が見落としがちな「実態と乖離させないための従業員アンケート項目」など、検索上位の記事でも触れられていない実践的なノウハウも公開します。

[ 目次 ]

  1. EVP(Employee Value Proposition)とは?なぜ今重要なのか
    1. EVPの意味と定義
    2. エンプロイヤー・ブランドとの決定的な違い
    3. 採用市場でEVPが注目される背景
  2. EVPを構成する3つの要素【フレームワーク解説】
    1. 契約的・金銭的価値(Rewards)
    2. 経験的・機会的価値(Opportunity)
    3. 感情的・情緒的価値(Culture & Purpose)
  3. 企業がEVPを策定・導入するメリット
    1. 【採用】ミスマッチのない「優秀な人材」の獲得
    2. 【定着】エンゲージメント向上と離職防止
  4. 【実践】失敗しないEVP策定の5ステップ
    1. Step1. 現状分析(自社の強みの棚卸し)
    2. Step2. 競合分析と差別化ポイントの整理
    3. Step4. 言語化とコンセプト決定
    4. Step5. 社内外への発信・運用開始
  5. EVPを「絵に描いた餅」にしないための重要ポイント
    1. 「実態」と「約束」のギャップを絶対に作らない
    2. まずは「社内」から浸透させる(インナーブランディング)
  6. 独自性のあるEVP導入・成功事例
    1. 日本マクドナルド(EVPを具体的な3つのFで定義)
    2. サイバーエージェント(挑戦と安心のセット提供)
    3. ユナイテッドアローズ(教育とキャリアを提供)
  7. EVPに関するよくある質問(FAQ)
    1. 中小企業やスタートアップでもEVPは作れますか?
    2. EVPは一度決めたら変えてはいけませんか?
    3. EVPの策定にはどのくらいの期間がかかりますか?
  8. まとめ
    1. Next Step:まずは「現場の声」を聞くことから
    2. EVPの策定から情報発信まで|採用広報なら「リクルーティングPR-X」

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EVP(Employee Value Proposition)とは?なぜ今重要なのか

EVPは、日本語で「従業員価値提案」と直訳されます。もっと噛み砕いて言うならば、EVPとは「企業が従業員に対して約束する『働くメリット』の総体」です。

企業と従業員の関係は、一方的なものではありません。従業員は企業に対して「スキル、時間、労力、情熱」を提供します。その対価として、企業は従業員に何を提供するのか。給与などの目に見える報酬だけでなく、経験や働きがいといった目に見えない価値も含めた、企業から従業員への「約束」。それがEVPです。

「この会社で働くことで、あなたはこれだけの価値(Value)を得られますよ」という提案(Proposition)が明確であればあるほど、企業と個人の関係は強固なものになります。

EVP企業と従業員の関係

EVPの意味と定義

EVPの範囲は非常に広く、単なる「給与や福利厚生」のことだけを指すのではありません。

例えば、以下のような要素もすべてEVPに含まれます。

  • 圧倒的な成長スピードが得られる環境
  • 心理的安全性が高く、失敗を恐れずに挑戦できる風土
  • 社会課題の解決に直結する事業への誇り
  • 尊敬できる経営者や仲間との人間関係

つまりEVPとは、「なぜ他の会社ではなく、この会社で働くのか?」という問いに対する、その企業なりの答えそのものです。

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条件面だけでなく、カルチャーやミッションへの共感までを含んだ包括的な概念であると理解してください。

エンプロイヤー・ブランドとの決定的な違い

EVPとよく混同される言葉に「エンプロイヤー・ブランド」があります。両者は密接に関わっていますが、役割は明確に異なります。

EVP エンプロイヤー・ブランド
中身(コンテンツ・実態・約束) 表現(評判・イメージ・発信)

例えるなら、EVPは「商品そのものの品質や機能」であり、エンプロイヤー・ブランドはそれを魅力的に伝えるための「パッケージや広告」です。

ここで重要なのは、中身(EVP)が伴っていないのに、表現(ブランド)だけを良くしてはいけないということです。実態のない「風通しの良い職場」や「充実した研修制度」をアピールして採用できたとしても、入社後に「話が違う」というリアリティショックを招き、早期離職につながるだけだからです。

EVPとエンプロイヤー・ブランドの関係

強いエンプロイヤー・ブランドは、必ず確固たるEVP(実態)の上に成り立っています。

採用市場でEVPが注目される背景

なぜ今、これほどまでにEVPが重要視されているのでしょうか。背景には、企業を取り巻く環境の不可逆的な変化があります。

第一に、労働人口の減少です。いわゆる「2030年問題」として知られるように、少子高齢化により日本の労働力は急速に減少しています。以前のように「求人を出せば人が来る」時代は終わりを告げました。

第二に、雇用の流動化です。終身雇用が当たり前ではなくなり、転職が一般的な選択肢となりました。人材はより良い環境を求めて常に移動しており、企業は常に「選ばれる立場」に置かれています。

第三に、個人の価値観の多様化です。給与や昇進といった従来の報酬だけでなく、「自分らしく働けるか」「社会の役に立っているか」といった精神的な報酬を重視する人が増えています。

このように、採用市場のパワーバランスが「企業が選ぶ」側から「企業が選ばれる」側へと完全に逆転しました。この変化の中で、自社が提供できる価値を明確に言語化できている企業だけが、優秀な人材を惹きつけ、定着させることができるのです。

EVPを構成する3つの要素【フレームワーク解説】

EVPを構成する3つの価値

EVPという概念は非常に広範囲に及ぶため、そのままでは自社の価値を整理しにくい場合があります。そこで、EVPを構成する要素を「3つの価値」に分類するフレームワークを使って考えると、理解しやすくなります。

自社の魅力がどこに偏っているのか、あるいはどこが不足しているのかを把握するために、以下の3つの視点で整理してみてください。これら3つの要素がバランスよく、かつ一貫性を持って提供されている状態が理想的です。

1. 契約的・金銭的価値(Rewards)

これは、企業と従業員の間で交わされる最も基本的な約束です。給与、賞与、インセンティブといった金銭的な報酬に加え、通勤手当や住宅手当などの福利厚生、オフィス環境や使用するPCのスペックといった物理的な環境もこれに含まれます。

働く上で最低限必要な「土台」となる要素と言えます。

しかし、この領域だけで他社と差別化しようとするのは危険です。なぜなら、給与や条件は数字で比較しやすく、競合他社もすぐに模倣できるからです。「他社より給料が高いから」という理由だけで入社した人は、さらに高い給料を提示する会社が現れれば、すぐに転職してしまう可能性があります。

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契約的価値は「あって当たり前」の衛生要因として整備しつつ、これ以外の価値でいかに独自性を出すかが重要になります。

2. 経験的・機会的価値(Opportunity)

この会社で働くことで得られる「経験」や「成長の機会」を指します。

具体的には、スキルアップのための教育研修制度、キャリア形成の支援、若手への裁量権の委譲、あるいはテレワークやフレックスタイム制といった柔軟な働き方もここに含まれます。

終身雇用が崩壊した現代において、多くのビジネスパーソンは「会社に守ってもらうこと」よりも「自分の市場価値を高めること」に関心を持っています。「この会社にいれば成長できる」「他でも通用するスキルが身につく」という「成長予感」を感じさせることは、優秀な人材を惹きつける強力な武器になります。

3. 感情的・情緒的価値(Culture & Purpose)

組織のカルチャーや目的意識、人間関係といった、精神的な充足感に関わる価値です。

「私たちは何のために事業を行っているのか(ミッション・パーパス)」への共感や、「どのような仲間と働けるのか(チームワーク)」、「心理的安全性が確保されているか」といった要素が該当します。

この感情的価値こそが、EVPの中核であり、最も他社が模倣しにくい領域です。条件や待遇が良いから入社したとしても、最終的に「この会社に居続けたい」と思わせるのは、この感情的な繋がりです。定着率(リテンション)を高めたいと考えるなら、この領域の言語化と浸透が不可欠です。

企業がEVPを策定・導入するメリット

EVPを明確にし、社内外に発信することで、企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。その効果は大きく分けて「採用」と「定着」の2つの側面に現れます。

【採用】ミスマッチのない「優秀な人材」の獲得

EVPが明確になると、単に応募数が増えるだけでなく、自社にフィットした人材からの応募が増加します。

Gartnerが提供するEVPガイドによると、魅力的なEVPを持つことで、積極的に転職活動をしていない「潜在的な候補者」を含め、労働市場へのリーチを50%向上させるとされています。

例えば、「高い報酬は出せないが、圧倒的な裁量権と成長機会を提供する」というEVPを掲げたとします。すると、安定志向の人の応募は減るかもしれませんが、成長意欲の高い人材にとっては非常に魅力的な選択肢となります。

このようにEVPは、自社に合う人を惹きつけ、合わない人を遠ざける「フィルター」の役割を果たします。結果として、採用後のミスマッチが減り、入社後の立ち上がりも早くなります。

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「なんとなく良さそうだから」ではなく、「自社の価値観に共感してくれたから」入社するという納得感が、双方の満足度を高めるのです。

【定着】エンゲージメント向上と離職防止

EVPの策定は、これから入社する人だけでなく、すでに働いている従業員にも大きな効果をもたらします。

日々の業務に追われていると、従業員自身も「自分がなぜこの会社で働いているのか」という理由を見失いがちです。EVPを通じて、改めて自社が提供している価値や魅力を再言語化することで、「やっぱりこの会社はいいな」という帰属意識(エンゲージメント)が高まります。

事実、Gartnerのデータによれば、EVPを効果的に提供できている企業は、年間の従業員離職率を69%減少させることができるとされています。また、Vantage Circleの報告では、強力なEVPを持つ組織は、そうでない組織と比較して従業員を300%以上長く維持できる(年間離職率5% vs 16%)というデータも示されています。

また、自社の魅力が明確になっていれば、他社の求人を見ても「給料は高いけど、ウチのような風通しの良さはなさそうだ」といった冷静な判断ができるようになります。つまり、隣の芝生が青く見えにくくなり、結果として離職率の低下につながるのです。

【実践】失敗しないEVP策定の5ステップ

EVP策定の5ステップ

EVPの重要性とメリットをご理解いただいたところで、ここからは具体的な策定手順を解説します。

多くの企業が陥りやすいのが、経営陣だけで会議室に集まり、「なんとなく良さそうな言葉」を並べてしまうことです。しかし、それでは現場の実態とかけ離れた、誰にも響かないスローガンになってしまいます。

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実効性のあるEVPを作るためには、以下の5つのステップを確実に踏んでいく必要があります。

Step1. 現状分析(自社の強みの棚卸し)

最初のステップは、自社の現状を正しく把握することです。ここで最も重要なのは、経営陣の「思い込み」を排除し、現場の「生の声」を集めることです。

経営者が「うちはアットホームな会社だ」と思っていても、若手社員は「上司に気を使いすぎて疲れる」と感じているかもしれません。このギャップを埋めないままEVPを作ると、失敗します。

情報収集には、以下の3つのソースを活用してください。

現状分析 3つのソース 内容
既存社員へのアンケート・インタビュー 活躍しているハイパフォーマー層と、平均的な層の両方に聞くことで、活躍できる人の条件が見えてきます。
退職者へのインタビュー 耳が痛い内容かもしれませんが、退職者は会社に対して最も正直な不満(=EVPの欠落部分)を持っています。ここに改善のヒントや、逆に「合わない人」の条件が隠されています。
人材紹介会社からのフィードバック 自社が採用市場でどう見られているか、客観的な意見をもらいましょう。「御社の提示年収は競合より低いですが、リモートワーク可な点が好評です」といったリアルな評価が手に入ります。

【コラム】EVPの種が見つかる「従業員アンケート」設問リスト

「社員に何を聞けばいいかわからない」という方のために、EVPの核となる要素を抽出するための具体的な質問リストを用意しました。ぜひ次回の社内アンケートや面談で活用してください。

推奨度が高い理由は、自社の最強のEVPです。逆に低い場合は、早急に解決すべき課題です。
給与条件以外で、「なぜここに居続けるのか」という問いへの答えこそが、定着要因(リテンション)の核心です。
求人票では伝わっていないけれど、実は魅力的な「隠れた資産」が見つかります。
社員が認識している自社の立ち位置を把握します。

Step2. 競合分析と差別化ポイントの整理

自社の強みが洗い出せたら、次は「それが競合他社と比べてどうなのか」を分析します。

採用における競合となる企業の採用サイトや求人票をチェックし、彼らがどのようなEVPを訴求しているかをリストアップしてください。

もし競合も「成長環境」を謳っていて、自社も同じように「成長」をアピールする場合、より具体的な根拠(例:書籍購入費無制限、副業解禁など)がなければ埋もれてしまいます。

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藤村
競合が訴求していない「空白地帯」を見つけるか、あるいは同じ訴求軸でも「自社の方が圧倒的に優れている点」を見つけ出すことが、差別化の鍵となります。

Step3. ターゲット人材の定義(ペルソナ設定)

万人に受けるEVPは存在しません。誰かにとってのメリットは、別の人にとってのデメリットになり得るからです。

例えば、「安定した基盤で、マニュアル通りに着実に仕事ができる」というEVPは、安定志向の人には魅力ですが、変革を好むチャレンジ精神旺盛な人には「退屈」と映ります。

自社が欲しいのはどのような人材なのか。ペルソナ(具体的な人物像)を明確に定義してください。「この人には刺さらなくていい」という割り切りが、ターゲット人材への訴求力を高めます。

Step4. 言語化とコンセプト決定

分析結果とターゲットに基づき、EVPを言葉に落とし込みます。

ここで注意すべきは、かっこいいキャッチコピーを作ろうとしないことです。「未来を創る」「世界を変える」といった抽象的で大きな言葉は、耳障りは良いですが、具体的なイメージが湧きません。

現場のインタビューで出てきた「生きた言葉」を使いましょう。例えば、「失敗しても、ナイスチャレンジと言われる文化」など、自社らしさが滲み出る表現の方が、求職者の心に深く刺さります。

Step5. 社内外への発信・運用開始

EVPが決まったら、採用サイトや求人票に反映させます。しかし、Web上に掲載して終わりではありません。

面接官のトークスクリプトにもEVPを組み込み、面接の場で候補者に直接語れるようにしてください。また、リファラル採用(社員紹介)の際に、社員が友人に自社を紹介する言葉としても使ってもらうよう働きかけます。

そして最も重要なのが、PDCAを回すことです。

EVP導入後、応募率は上がったか、内定承諾率は改善したか、早期離職は減ったか。半年から1年ごとに数値を測定し、効果が出ていなければメッセージやターゲットを見直す勇気を持ってください。

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市場環境や会社のフェーズが変われば、EVPも進化させていく必要があります。

EVPを「絵に描いた餅」にしないための重要ポイント

素晴らしい言葉を並べたEVPを策定しても、それが現場で機能していなければ意味がありません。むしろ、実態のないEVPは組織に悪影響を及ぼすことさえあります。

EVPを単なるスローガンで終わらせず、組織の力に変えるために、必ず押さえておくべき2つのポイントをお伝えします。

「実態」と「約束」のギャップを絶対に作らない

EVP運用において、最も避けるべきは「嘘をつくこと」です。

例えば、採用サイトで「風通しが良く、若手の意見が通るフラットな組織」と謳っているにもかかわらず、実態は完全なトップダウンで、上司の顔色ばかり伺うような環境だったとしたらどうなるでしょうか。

期待して入社した新人は「話が違う」と強いショックを受けます。これをリアリティ・ショックと呼びます。結果として、早期離職につながるだけでなく、口コミサイトやSNSに「あの会社は嘘つきだ」という悪評を書かれるリスクすらあります。一度失った信頼を取り戻すのは容易ではありません。

もし自社がハードワークな環境なら、それを隠して「ワークライフバランス」を謳うべきではありません。むしろ「仕事は厳しいが、どこよりも早く成長できる」と正直に伝えるべきです。

自社の弱みも含めて正直に開示すること(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)が、結果としてミスマッチを防ぎ、信頼性の高い採用につながります。

まずは「社内」から浸透させる(インナーブランディング)

EVPが決まったら、すぐに求人広告に載せたくなる気持ちはわかります。しかし、まずは社内に向けて発信し、既存社員の共感を得ることが先決です。

なぜなら、採用面接やリクルーター面談で候補者と接するのは、現場の社員だからです。社員自身が「うちの会社の魅力はこれだ」と腹落ちしていなければ、候補者に熱意を持って語ることはできません。

浸透させるための具体的な手法として、EVPをテーマにした社内ワークショップの開催や、ユニークな事例として「EVPカードゲーム」を作成して遊びながら理解を深めるといった方法があります。

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社員一人ひとりが、自分の言葉で自社のEVPを語れる状態を作る。これこそが、最強の採用ブランディングです。

独自性のあるEVP導入・成功事例

抽象的な概念だけでなく、実際に企業がどのようなEVPを掲げ、成果につなげているのか。具体的な成功事例を3つ紹介します。

日本マクドナルド(EVPを具体的な3つのFで定義)

日本マクドナルドは、EVPを「Flexibility(柔軟性)」「Family & Friends(家族と友人)」「Future(未来)」という3つのFで定義しています。

特筆すべきは、これが単なるスローガンではなく、実利と紐付いている点です。例えば「Flexibility」においては、週ごとのシフト提出システムを導入し、学生や主婦が自分の生活に合わせて働きやすい環境を物理的に提供しています。

「働きやすさ」という曖昧な言葉ではなく、具体的な仕組みで約束を果たしている好例です。

サイバーエージェント(挑戦と安心のセット提供)

IT大手のサイバーエージェントは、「挑戦と安心はセット」という考え方をEVPの根底に置いています。

「若手抜擢」や「新規事業への挑戦」という攻めのカルチャーを強調する一方で、オフィスの最寄り駅から2駅圏内に住む社員に家賃補助を出す「2駅ルール」などの福利厚生で、生活の安心を保障しています。

「挑戦しろ」と尻を叩くだけでなく、「失敗しても生活は守る」というセーフティネットを用意することで、社員が思い切ってリスクを取れる環境を作り出しています。

ユナイテッドアローズ(教育とキャリアを提供)

人材獲得競争が激しい小売・アパレル業界において、ユナイテッドアローズは「教育」と「キャリア」をEVPの核に据えています。

販売員を単なるスタッフとして扱うのではなく、プロフェッショナルな職種として定義。「セールスマスター制度」などの明確なキャリアパスや、充実した研修プログラムを提供することで、「ここでなら販売のプロとして長く活躍できる」という将来像を提示しています。

給与競争になりがちな業界で、「キャリア形成」という付加価値で差別化に成功している事例です。

EVPに関するよくある質問(FAQ)

最後に、EVP導入を検討する際によくある疑問にお答えします。

Q. 中小企業やスタートアップでもEVPは作れますか?

A. はい、作れます。むしろリソースが限られる中小企業こそ、EVPが必要です。

大手企業のように高い給与や充実した設備を用意するのは難しいかもしれません。しかし、「経営陣との距離が近い」「裁量権が大きい」「意思決定が早い」といった要素は、大企業にはない強力な武器になります。

「ないもの」を嘆くのではなく、「あるもの」を言語化し、それを求めている層に届けることこそがEVPの本質です。

Q. EVPは一度決めたら変えてはいけませんか?

A. いいえ、変えていくべきものです。

企業の成長フェーズや市場環境によって、求められる人材も提供できる価値も変化します。創業期には「混沌とした環境での挑戦」が価値だったとしても、安定期に入れば「仕組みの中で成果を出すこと」に価値がシフトするかもしれません。

1年から数年単位で定期的に見直し、今の会社の実態に即しているかを確認し、アップデートしていきましょう。

Q. EVPの策定にはどのくらいの期間がかかりますか?

A. 企業の規模にもよりますが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度を目安にしてください。

従業員へのアンケートやインタビュー、競合調査、そして言語化には相応の時間がかかります。ここを急いでトップダウンで決めてしまうと、現場の共感を得られない形だけのものが出来上がってしまいます。

組織の根幹に関わるプロジェクトですので、焦らずじっくりと取り組むことをおすすめします。

まとめ

EVPは、採用活動を成功させるための「魔法の杖」ではありません。策定したからといって、翌日から応募が殺到するわけではないでしょう。

しかし、EVPを策定し、運用し続けることは、企業と従業員の間の信頼関係を強固なものにします。「私たちはあなたにこの価値を約束する」と宣言し、それを守り続ける企業の姿勢こそが、結果として優秀な人材を惹きつけ、長く活躍してもらうための唯一の道です。

Next Step:まずは「現場の声」を聞くことから

ここまでお読みいただき、EVPの重要性は理解できたものの、何から始めればいいか迷っている方もいるかもしれません。

まずは今日、隣の席の社員や、ランチを共にする同僚に、こう聞いてみてください。

「あなたが、この会社で働き続けている一番の理由は何ですか?」

その答えの中にこそ、あなたの会社だけのEVPの種が隠されています。まずはその一言を聞くことから、組織を変える第一歩を踏み出してみましょう。

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