ドライバー不足の解決策として多くの運送会社に注目されているのが、2020年に創設された「働きやすい職場認証制度」です。
「そもそもどんな制度なのか?」「申請条件や費用を知りたい」「本当に採用効果はあるか?」とい
った疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、働きやすい職場認証制度の基礎知識から、取得するメリット、必要書類と費用まで、わかりやすく解説します。
制度を正しく理解し、確実に認証を取得するためのステップを、この記事ですべて理解できるようにしたので、ぜひ最後までご覧ください。
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働きやすい職場認証制度(運転者職場環境良好度認証制度)とは?

働きやすい職場認証制度とは、職場環境の改善に取り組んでいる自動車運送事業者を国が評価し、認証する制度です。
正式名称は「運転者職場環境良好度認証制度」といいますが、一般的には通称である「働きやすい職場認証制度」と呼ばれています。
国土交通省が制度を創設し、認証実施団体として指定された一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が運営を行っています。
働きやすい職場認証制度の目的
この制度の最大の目的は、運送業界が抱える慢性的なドライバー不足の解消です。
運送業界には、どうしても「長時間労働」や「きつい仕事」といったネガティブなイメージがつきまといます。求職者は「入社してみないと実態がわからない」という不安から、応募をためらってしまうのが現状です。
そこで、法令遵守や労働条件の改善に真面目に取り組んでいる事業者を「見える化」します。求職者が安心して就職できる職場であることを客観的に証明し、業界全体への人材流入を促進することが狙いです。
対象はトラック・バス・タクシー事業者

本制度の認証対象となるのは、以下の自動車運送事業者です。
- トラック事業者
- バス事業者(乗合・貸切)
- タクシー事業者
原則として、それぞれの事業許可を取得してから「3年以上」経過している事業者が対象となります。
これは、一時的な取り組みではなく、継続的に事業を運営し、法令遵守の基盤ができているかを判断するためです。ただし、企業グループの再編や事業譲渡などがあった場合には、例外的に3年未満でも申請が可能になるケースもあります。
一つ星・二つ星・三つ星のランク制度
認証には「一つ星」「二つ星」「三つ星」という3つのランクが設けられています。

この制度の特徴は、段階的なステップアップを前提としている点です。どれだけ優れた取り組みをしていても、初回申請からいきなり「三つ星」を取得することは原則としてできません。
まずは法令遵守を基本とする「一つ星」を取得し、その取り組みを維持しながら、より高度な要件を満たすことで「二つ星」、そして最高位の「三つ星」へとランクアップしていく仕組みです。
働きやすい職場認証制度を取得する3つのメリット
働きやすい職場認証制度の取得は、単に「認定証がもらえる」だけではありません。経営課題である「人・物・金」のすべてにおいて、実利的なメリットがあります。
1. 求職者へのアピールと採用コストの削減
最大のメリットは、採用活動における差別化です。
求職者は、運送業界に対して「ブラックな労働環境ではないか」という不安を常に抱えています。どれだけ求人広告で「アットホームな職場です」と謳っても、客観的な証拠がなければその不安を払拭することは困難です。
認証を取得すると、自社の求人票やトラックの車体に認証マークを表示できるようになります。ハローワークの求人票においては、認証事業者であることを備考欄などに明記でき、求職者が企業を選ぶ際の重要な判断材料となります。
結果として、求人広告を出しても反応がなかった企業が、「国に認められたホワイト企業」というお墨付きを得ることで、応募数が増加するケースがあります。採用単価(一人採用するためにかかる広告費)を下げる効果も期待できるでしょう。
2. 設備割引や保険料優遇などの金銭的インセンティブ
認証事業者には、国や民間企業から様々な金銭的メリットが提供されています。
まず、国土交通省が選定した「認定推進機関」による割引サービスです。たとえば、特定の求人メディアへの掲載料割引や、営業所の設備改修工事の割引などを受けられます。
次に、保険料の割引です。一部の損害保険会社では、認証事業者を対象に「業務災害補償保険(任意労災保険)」の保険料を割り引く商品を展開しています。リスク管理ができている企業として評価されるためです。
さらに、自治体によっては、トラック協会を通じた助成金や、補助金の採択審査において加点対象となる場合もあります。こうしたコスト削減効果を積み上げれば、申請にかかる審査料や登録料の元を取ることも十分に可能です。
3. 荷主・金融機関・家族からの社会的信用の向上
認証の効果は、荷主企業や金融機関、そして従業員の家族にまで波及します。
近年、荷主企業はコンプライアンス(法令遵守)を重視しており、法令違反のリスクがある運送会社への委託を避ける傾向にあります。認証を取得していれば、コンプライアンス体制が整っていることの証明となり、新規取引の獲得や契約継続の交渉で有利に働きます。
また、意外と見落とされがちなのが「家族への説得材料」としての効果です。ドライバーが転職を希望しても、配偶者や親から「運送業は過酷だから」と反対されるケースは少なくありません。
そのような場面で、「この会社は国から働きやすさを認められている」という事実は、家族を安心させるための武器になります。内定辞退や早期離職を防ぐためにも、認証制度は大きな役割を果たします。
働きやすい職場認証制度を申請できる最低条件
メリットが多い制度ですが、どの運送会社でも無条件に申請できるわけではありません。実は、申請を受け付けてもらえない「足切り条件(欠格事由)」が存在します。
これを知らずに準備を進めると、申請自体が却下され、時間と費用が無駄になってしまう恐れがあります。申請書類を作成する前に、まずは自社が以下の条件に該当していないか、必ずセルフチェックを行ってください。
これがあると不合格|行政処分と法令違反リスト
審査において最も重視されるのは、過去の法令違反や行政処分の履歴です。以下のリストにある項目にひとつでも該当する場合、原則として認証を取得することはできません。
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これがあるとNG
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詳細
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重大な法令違反
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- 申請日の前月から過去1年以内に、労働基準関係法令違反で厚生労働省により企業名を公表されている。
- または、同期間に違反で送検されている(不起訴・無罪を除く)。
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行政処分の累積
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- 行政処分による違反点数が「20点」を超えている。
- 申請対象の営業所において、拘束時間や休日労働の違反による行政処分の累積点数が「5点」を超えている。
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特定の義務違反
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- 健康診断を受けさせていないこと(受診義務違反)による行政処分を受けている。
- 社会保険や労働保険に加入していないこと(加入義務違反)による行政処分を受けている。
- 最低賃金を支払っていないこと(最低賃金法違反)による行政処分を受けている。
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特に注意が必要なのは、直近1年間のコンプライアンス状況です。過去に行政処分を受けていても、期間が経過し、現在は改善されていれば申請可能な場合があります。
一つ星でも求められる最低限のライン
上記のリストを見て「厳しそうだ」と感じた方もいるかもしれません。しかし、これらはあくまで「運送事業者として最低限守るべきルール」です。
働きやすい職場認証制度、特に「一つ星」の審査基準は、決して無理難題を押し付けるものではありません。基本的には「法律で決まっていることを、正しく守っているか」を確認するものです。
たとえば、36協定を締結して届け出ているか、健康診断を定期的に実施しているか、法定通りの有給休暇を与えているかといった項目が中心です。
日頃から法令遵守を意識し、当たり前のことを当たり前に実施している「まっとうな会社」であれば、恐れる必要はありません。むしろ、この制度は「ルールを守らない悪質な業者」と「真面目な業者」を明確に区別し、真面目な会社が正当に評価されるための仕組みといえます。
一つ星・二つ星・三つ星の違いと審査基準
働きやすい職場認証制度には3つのランクがあり、それぞれ求められるレベルや審査の深さが異なります。
ここでは、各ランクの決定的な違いと、審査でチェックされる具体的なポイントを整理します。現状の自社の実力でどこを目指せるのか、目標設定の参考にしてください。
ランクごとの取得難易度と要件比較表
各ランクの違いを一言で表すと、一つ星は「法令遵守」、二つ星は「法令を上回る取り組み」、三つ星は「業界最高水準かつPDCAの実践」です。
具体的な違いを以下の表にまとめました。
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項目
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一つ星(★)
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二つ星(★★)
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三つ星(★★★)
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レベル感
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【法令遵守】
法律で決まったことを確実に実施している
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【自主性】
法令を上回る独自の取り組みを行っている
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【先進性・継続性】
業界トップレベルかつ、PDCAを回して改善し続けている
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審査項目数
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25項目(合格点あり)
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一つ星の要件
+追加17〜20項目
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二つ星の要件
+PDCAに関する審査
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主な要件例
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有効期間
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2年間
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2年間
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2年間
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これから初めて申請する事業者は、原則として「一つ星」からのスタートになります。まずは一つ星で足場を固め、次回の更新時に二つ星以上へステップアップを狙いましょう。
審査対象となる6つの分野
審査では、大きく分けて以下の6つの分野についてチェックが行われます。申請時には、これらの取り組みを証明するための書類(就業規則、各種帳簿、写真など)を提出しなければなりません。
具体的な審査の視点を見ていきましょう。
1. 法令遵守等
もっとも基礎となる部分です。就業規則が整備されているか、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)が労働基準監督署に届け出られているかなどを確認します。ここがクリアできないと、他の項目がどれだけ良くても認証されません。
2. 労働時間・休日
ドライバーの長時間労働是正に向けた取り組みを評価します。法定通りの休日が与えられているかはもちろん、有給休暇の取得実績(例えば5日以上)などがチェックされます。勤怠管理システム(デジタコ等)による適切な時間管理もポイントです。
3. 心身の健康
ドライバーが長く健康に働ける環境かどうかを見ます。定期健康診断の受診率100%は必須条件です。さらに上位ランクでは、ストレスチェックの実施や、脳ドックなどのより詳細な検診補助などが評価対象になります。
4. 安心・安定
事故防止や雇用の安定に関する項目です。新人ドライバーへの教育体制や、衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全自動車(ASV)の導入状況が見られます。また、社会保険への加入状況も厳しくチェックされます。
5. 多様な人材の確保・育成
女性、高齢者、外国人など、多様な人材が活躍できる環境整備を評価します。女性専用の更衣室やトイレの設置、若手採用に向けたインターンシップの実施などが加点要素となります。
6. 自主性・先進性等(二つ星・三つ星のみ)
一つ星にはない、上位ランク専用の項目です。「法令で決まっているわけではないが、会社として独自に行っている良い取り組み」が評価されます。例えば、独自の表彰制度、資格取得支援、地域の防災活動への参加などが該当します。
申請方法・スケジュール・費用
「申請手続きが複雑で、何から手を付ければいいかわからない」
そんな事務担当者の方のために、申請から取得までの具体的な流れと、費用を最小限に抑えるためのポイントを解説します。
申請から認証取得までのスケジュール
これまで、働きやすい職場認証制度の申請期間は特定の期間に限定されていましたが、2025年度から通年申請できるようになりました。
申請・審査の必要書類
審査で提出が求められる主な書類は以下の通りです。これらは新たに作成するものではなく、普段から会社で管理している帳簿類がほとんどです。
| 必要書類 |
解説 |
| 審査申込書・営業所一覧・自認書 |
指定の様式に記入します。 |
| 就業規則 |
労働基準監督署の受付印がある表紙と、該当ページが必要です(10人未満の営業所は受付印不要)。 |
| 36協定(時間外・休日労働に関する協定届) |
労働基準監督署の受付印があるものが必要です。 |
| 労働条件通知書(または雇用契約書) |
ドライバーに交付しているひな形を提出します。 |
| 定期健康診断結果報告書 |
労働基準監督署へ提出した直近1回分の写しです(50人未満の営業所は不要な場合があります)。 |
| 安全衛生委員会等の議事録 |
委員会を設置している場合に提出します。 |
| 事業改善報告書等 |
過去に行政処分を受けている場合のみ必要です。 |
スムーズに申請するためには、これらの書類がすぐに取り出せる状態に整理しておくことが重要です。どこにあるかわからない書類がある場合は、今のうちに総務担当者や社会保険労務士に確認しておきましょう。
取得までにかかる費用
認証取得には「審査料」と「登録料」の2種類の費用がかかります。
電子申請にするだけで、審査料が20,000円安くなり、書類を印刷・郵送する手間やコストも削減できるため、特別な事情がない限り、コスト面でも効率面でも電子申請をおすすめします。
一つ星・二つ星の新規・更新にかかる費用
| 費目 |
電子申請の場合 |
紙申請の場合 |
| 審査料 |
30,000円 + (3,000円 × 追加営業所数) |
50,000円 + (3,000円 × 追加営業所数) |
| 登録料 |
60,000円 + (5,000円 × 追加営業所数) |
60,000円 + (5,000円 × 追加営業所数) |
三つ星(新規認証取得)にかかる費用
| 費目 |
電子申請の場合 |
紙申請の場合 |
| 審査料 |
127,000円 + (3,000円 × 追加営業所数)+ (84,000円 × 2ヵ所目以降の対面審査対象営業所数) |
147,000円 + (3,000円 × 追加営業所数)+ (84,000円 × 2ヵ所目以降の対面審査対象営業所数) |
認証の有効期間と更新手続きの注意点
認証の有効期間は、登録証書の発行日から原則として「2年間」です。
一度取得すれば永続するものではありません。認証を維持するためには、有効期間の6ヶ月前から失効までの間に「継続申請(更新)」を行う必要があります。
更新の時期を逃して有効期間が切れてしまうと、認証は失効します。再び取得するには、また一から「新規申請」を行わなければならず、審査料も新規の高い料金がかかってしまいます(継続申請なら15,000円で済みます)。
せっかく取得した認証を無駄にしないよう、次回の更新時期をカレンダーや管理ソフトに登録し、絶対に忘れないように管理してください。
働きやすい職場認証制度を採用に活用する方法
認証を取得しただけで満足してしまい、金庫に証書をしまっていないでしょうか。それでは、せっかくかけた費用と時間が無駄になってしまいます。
この制度の真価は、認証を「武器」として採用活動の最前線で使い倒すことにあります。認証マークや認定の事実を、求職者の目に触れる場所へ戦略的に配置することで、応募数や承諾率は確実に変わります。
ここでは、すぐに実践できる具体的な活用術を紹介します。
Indeedや自社採用サイトでの見せ方
まず着手すべきは、自社の採用サイトやIndeedなどの求人媒体における見せ方の改善です。求職者は数多くの求人広告をスピーディーに閲覧しているため、一瞬で「この会社は他とは違う」と感じさせる必要があります。
具体的には、認証マークをサイトの「ファーストビュー(開いて最初に見える範囲)」に配置してください。ヘッダー部分や、メインビジュアルの中に組み込むのが効果的です。
また、求人原稿のキャッチコピーやタイトルの冒頭に、「国土交通省認定の働きやすい職場」や「国が認めたホワイト企業」という言葉を入れてください。単に「働きやすいです」と書くよりも、信頼性が格段に高まります。
さらに、応募フォームの「送信ボタン」の近くに認証マークや「法令遵守企業です」という文言を添えるのもテクニックのひとつです。応募直前にふとよぎる「本当にこの会社でいいのか?」という迷いを打ち消し、応募ボタンを押す後押しになります。
面接で伝え・パンフレットに記載する
Web上でのアピールだけでなく、面接という対面の場でも認証制度は強力な説得材料になります。
面接時には、口頭で説明するだけでなく、額に入れた「登録証書」の実物を見せてください。「国からこのような認定証をもらっています」と物理的な証拠を見せることで、求職者の安心感は強まります。
また、会社案内や採用パンフレットに、制度の説明と自社のランク(一つ星など)を記載するのも有効です。その際、「ご家族の方へ」というページを設け、「当社は国交省の認証制度を取得しており、長時間労働の是正に取り組んでいます」とメッセージを添えてみてください。
求職者がそのパンフレットを自宅に持ち帰り、妻や親に見せたとき、このメッセージが家族の不安を解消し、入社の最後の一押しをしてくれるはずです。認証制度を、求職者本人だけでなく、その背後にいる家族を説得するためのツールとして活用してください。
働きやすい職場認証制度に関するよくある質問(FAQ)
最後に、制度への申請を検討している事業者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。不安や疑問を解消して、次のステップへ進むための参考にしてください。
まとめ:働きやすい職場認証制度で「選ばれる運送会社」へ
働きやすい職場認証制度について、仕組みからメリット、具体的な申請のポイントまで解説しました。
ドライバー不足や「2024年問題」など、運送業界を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。その中で生き残り、成長していくためには、「選ばれる会社」になることが不可欠です。
働きやすい職場認証制度は、貴社が法令を守り、従業員を大切にしていることを客観的に証明する最強のカードになります。
「うちはまだ準備不足かもしれない」と迷っているなら、まずは最新の申請案内書をダウンロードし、現在の自社の状況と照らし合わせることから始めてみてください。その一歩が、貴社の採用力と経営体質を大きく変えるきっかけになるはずです。
第三者機関が審査を行うため、自社で「ホワイト企業です」と名乗るよりもはるかに高い信頼性を求職者や取引先に与えることができます。